2017年2月10日金曜日

KT88シングルアンプの製作(設計)

[設計編]
 OPT-11Sは二次側端子を0-4-8Ω使用時B-2.5K-3.5Kとして、0-8-16Ω使用時にはB-5K-7Kとして使用出来るようになっている。許容電流は90 mAとなっている。各接続での10W出力時の一次電圧電流は次のとおり。
2.5K    224 V/89 mA
3.5K    265 V/76 mA
5K    316 V/63 mA
7K    374 V/53 mA
A級動作では上記電流の二倍以上の電流がプレート電圧最小点で流れる。三結時に100~180 mA流すのに必要なプレート電圧は80~150 Vであり、自己バイアスを採用するとバイアス抵抗による電圧降下が30~50 Vあるため動作電圧は上記電圧に130~180 V嵩上げした値が必要だ。つまり400~500VがB電圧である。今回はトランスの巻き線をフルに利用して有効活用したいので3.5K動作で設計することとした。10W動作ならば450V程度ほしいところだがPV-145で可能か検討してみよう。

 山水のPV-145は倍電圧整流用のトランスで10-0-85-105-125 V/0.7 Aの巻き線がある倍電圧整流はACのざっと2.4倍の電圧で0.3倍の電流が目安なので10-125 Vを使用して325 V/0.2 Aという計算だ。3.5KΩ負荷だと前段の分を考慮しても充分な電流容量があるが電圧は目標よりも低い。幸いヒーター用に6.3 V/2 Aが4つあるので終段に各1、前段に共通で1使って余った巻き線で嵩上げしてみよう。これで約340Vだ。まだ足りないのだがC電源用に32 V巻き線があるのでとりあえずは自己バイアスで製作して物足りなくなればこの巻き線を使用した固定バイアスとすることを考えようと思う。

 6.3 V嵩上げすると約141 Vなので波高値は200 Vppとなる。電流はDCで180 mA程度なのでピーク値が20倍として3.6 A。この程度であれば汎用される1000 V/1 A規格の1N4007で充分対応可能だろう。リプル除去の容易さから全波倍電圧整流形式を採用する。コンデンサの容量を計算してみる。倍電圧整流では上下二段になったコンデンサにサイン波の位相180度毎にそれぞれ充電することで電圧を倍加させている。消費電流を0.2 Aとすると50 Hzの1周期の間に供給すべき総電荷は0.2 (A=C/s) / 50 (Hz=c/s) = 0.004 Cつまり4 mCとなる。一方コンデンサが蓄電する電荷は容量×電圧の関係があるので10%の変動率に抑えるならば供給電荷の10倍の蓄電容量が必要と概算できる。つまり40 mCが必要で200 Vであれば40 mC / 200 V = 200 uFと計算される。というわけで340 V程度であれば220 uF/250 Vのケミコンで良いだろう。

 整流後だが、手持ちと大きさの関係で3 H/150 mAのチョークコイルと390uF/450Vのコンデンサを使用することとする。内部抵抗の低い三極管接続では電源の安定度とクロストークに留意する必要があるがまあ妥協しよう。

 出力管はとりあえず自己バイアスにするとして安全を考えてグリッド抵抗は100KΩ、結合コンデンサには0.22 uF/400Vとする。三結でKT88の場合400 Vで70 mAの時-40 V程度のバイアス電圧となるので前段の増幅度は40倍程度必要だ。三極管であれば12AT7が選択肢だが余裕をみると12AX7か五極管を使用するか全三段増幅とすることとなる。バイアスが40V程度なのでグリッド抵抗には0.4 mA程度の信号電流が流れる。前段が影響を受けないようにするなら5~10倍は電流を流したいので2~4 mA程度の電流を流したい。というわけで余裕はないのだが12AT7を採用しようかと思った。
 以前、秋葉原にあった真空管屋で安価に売っていた複合管にロシア規格の6F12Pという三極五極管がある。大きさは6U8と同程度の大きさで内部電極はさらにもう一回り小さいのだが規格を調べてみると三極部で3.5Wのプレート損失を許容できることになっている。特筆すべきはμが12AX7と同じく100でgmが19mSもある低内部抵抗管であるという点だ。発振といった不安定要素がある可能性もあるが、この三極部を使用すると一段での高倍率増幅を持ちながらパワフルに終段をドライブできるはずだ。というわけで6F12Pを使用することに決めた。とりあえずは39kΩ負荷で5 mA程度になるようにバイアスをかけて問題があれば対応することとしよう。

 これで大筋の設計は終わった。

0 件のコメント:

コメントを投稿