2017年1月4日水曜日

偽物2SC2314 その1

読者の方々(実は現在誰もこのblogを訪問された方はいない(笑))、あけましておめでとうございます。ぼちぼちと書き綴っていきますのでよろしく。

 今日のネタは偽物トランジスタである。今回はCB用ドライバーの2SC2314をとりあげる。これはCB用として開発されたトランジスタとしてはかなり後発にあたる1W程度の出力のためのトランジスタで0.5Wが最高出力であった日本規格としては終段、出力の大きなアメリカ規格としては終段の1,2段前のドライバー用となっている。データシートでは27Mhzにおいて35mW入力に対して1.8Wの出力となっていてfTが250MHz@50mAと50MHzでもそこそこの性能が期待できるトランジスタだ。
 三洋は意外と(失礼)高周波につかえるトランジスタを後期まで販売していたのだが、メーカー自体が合併されてしまう憂き目にあっており廃版となって久しい。しかしHFハイバンドから50MHzで1W程度の出力を持つトランジスタというのはなかなかないので、自作派の無線家にとってはそこそこの需要があると思われる。

 さて、またまた中国から2SC2314を入手してみたところ、これがまた偽物であったので調べてみた。


 実は届いた偽物は大きくわけて三種類あり、すべて違った特性だったのだが、今回は一つだけ紹介する。本物もレーザーマーキングの時代のものであり、マーキングは結構見にくい。データシートを参照してもらうとわかるのだが、本物は表側に逆三角形を描くようにピポットがそんざいする。偽物にもピポットがあるのだが三つの大きさが異なる。これはもともとなのか、後で付け足したのかはわからない。裏側も若干形が異なっている。

 今回、このような回路を組んで特性を調べてみた。



 このトランジスタは高周波用としては高いhFE(~200)を持っており、バイアスを調整しないと面倒なのでC級で計測することも考えたのだが、入出力のインピーダンス変換の周波数特性の影響を減らすためにAB級で計測することとした。簡単に取り換えられるようにICソケットを3端子分使用している。トロイダルコア活用百科では1Wクラスのアンプでは60 mA程度のバイアスを流すことになっているが、放熱器を結合させるのが面倒だったので30mAで測定した。バイアス調整も短時間測定ということで熱補償もなく単に抵抗で分圧したのだが、この副作用もでてしまった。

 これが測定した結果である。本物、偽物ともに20dBmで飽和してしまっており、設計値よりも10dBも低い値になってしまっている。偽物2SC2314の方で10dBm以上を入力すると、測定中に消費電流が30mAよりも下がってしまった。真空管の回路では入力がない状態で通電するとプレート電流が流れすぎてしまうので電圧を落とすかきちんと入力を加えることを覚えている方もおられると思う。これはグリッドの整流作用によりグリッド電流が流れたことでグリッド電位が負に傾き電流が抑制されるからなのだが、これと同じことが起きており、ベース電位が低下したためにAB級動作からC級のモードに変化してしまったのだろう。簡単なバイアス回路にするために直流としても入力抵抗が高すぎて一種のAGCのようになってしまったために20dBmで飽和してしまったものと考えられる。
 飽和しない入力レベルである-20dBmを見ていただくとわかるのだが、どちらも1MHzでは30dB近い利得がある。本物は50MHzでも15dB程度の利得があるが、偽物は50MHzで利得は0となってしまった。入力に4:1のステップダウントランスを入れて50Ω時に対して2倍の電流を入力していることになるので6dBの利得の時にトランジスタのベース電流とコレクタ電流が釣り合うことになる。fTの定義はエミッタ接地における電流増幅率が1になったところであるから、本物のfTは100MHz程度、偽物は30MHz程度と読み取れるわけだ。
 この値は本物としてもデータシートでは250MHzとなっているわけなので低すぎるのだが、回路自体の周波数特性により劣化したこと、データシートは50mAの時のfTであるので30mAでは低くなっていることが考えられることの相乗作用であると思う。こんなことは言い訳といわれても仕方ないが、実際に使用する条件に今回は近いわけで、このような回路でそれなりに使用できないようでは使えないと思ってよいのではないだろうか?

 ちなみにDE-5000を使用して100kHzにおけるCbeを測定すると本物は30pF程度、偽物は60pF程度と違いがあった。