2016年12月29日木曜日

トロイダルコアでIFT

 そんなに時間が取れなかったので小ネタを。
 455kHz、10.7MHzといった有名どころの周波数以外の段間を接続するトランスとして長らく定番の位置を占めていたFCZコイルが廃版となって久しい。共振インピーダンスを200Ω程度としタップは中間にとる、1次2次の巻き数比は1:3とするといった性能を追求するというより妥協するという設計思想であるので究極の性能をというわけにはいかないが、なにぶん形状、特性が規格化されていたので良好な再現性が得られるというのが普及した要因だろう。現在も互換品、類似品がある程度入手可能である。
 別の代替案としてトロイダルコアを用いたIFTを使用するというのも使われていて、海外の作例を見ると特性には完全に目をつぶってフェライト系のコアを使用した例も見受けられる。特性を追求するといってもFCZコイルと異なり実装後にインダクタンスを調整するということは出来ないのでトリマコンデンサを使って調整することとなる。とはいえ、トリマコンデンサは実装面積を取り、温度特性もそれほど良いとは言えないので、結局のところ性能向上にどれほど貢献しているのか?という疑問は残る。

 今回、3種のトランスを製作して特性を調べてみた。
1)T25#6コアにA:B = 5 turn : (5 + 10) turnとしたもの
2)T25#6コアにA:B = 5 turn : 5 turn巻き、同調巻き線として別に15 turn巻いたもの
3)T37#6コアにA : B = (5 + 10) turn : (5 + 10) turnとしたもの
の3種類である。それぞれ5 turnの巻き線に50Ωの信号源、および負荷を置いて特性を見てみた。
設計はFCZコイルに合わせて50MHzで200Ω程度となるような巻き数を選んでいて15 turnの巻き線にそれぞれ12 pFのコンデンサを付加している。設計上では15 pF程度となるのだが、実装の都合上コアに均等に巻き付け出来ないので多少インダクタンスが計算より増えることを見越したのだが結果からいうと15pFでも良かったかもしれない。

1)A→B方向
 共振点:56.6MHz loss 0.5dB
 3dB幅:7.9MHz Q:7.2
 B→A方向
 共振点:55.9MHz loss 3.0dB
 3dB幅:8.6MHz Q:6.5

2)共振点:52.9MHz loss 0.1dB
 3dB幅:4.1Mhz Q:12.9

1,2)は単同調らしく単峰特性となった。1)で方向により特性がそれなりに違うのは意外だったが、測定の手技的な影響は否めない。測定中の方向転換時に巻き線が動いてしまうため距離が変化したということもあるとは思う。
2)は1)よりも損失が大きいと思ったのだが結果としては逆で少なくなった。ただし、2)では60~70MHzに反共振点とみられるディップが存在していた。位相も見てみたのだが、1,2)共に共振点ではおおよそ90度ずれていた。トランスとしてみれば0または180度となるのでリークインダクタンスの影響だと思う。直流阻止としては小容量のコンデンサを結合コンデンサとして使用する例が時折見受けられるが、90度ずれるということから考えるとインダクタンス補償は回路デザインによっては特性を大きく変化させる可能性があろう。

3)は意外にもLSB型のクリスタルラダーフィルターのような特性を有していた。たまたまという可能性は充分にあるのだが、二峰性になると思っており、10MHz程度のフラットな領域がでるとは思っていなかった。フィルターとしてみれば通過帯域、阻止或ともに満足いく性能とはいいがたいが使いどころはあるかも知れない


それぞれ特徴があって面白い。かといって2,3)の用法の場合は安易に実装すると発振に悩まされるかも知れないが・・・


[追記]
SPICEでシミュレートしてみると離れたコイル間の結合係数は0.3~0.4程度と低く、この適度な低さが程よい特性をもたらしているようだ。
#2材程度では変わらないかも知れないがフェライトコアにすると透磁率が一桁以上高くなるのでより結合度の高い、つまりはブロードだったり双峰特性になったりするのかもしれない

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