2017年2月26日日曜日

整流管は劣化するか?

 そろそろ半導体の話題に戻ろうかといろいろと試してみているがまとめるにはどうもしっくりとこない。手持ちの真空管でも未使用のものがいろいろとあるので目移りもしてしまっている。6BM8や16A8が結構あるので、そろそろ使用してやってこじんまりとプッシュプルなんてどうだろうか?などという考えが頭をよぎるかと思えば、4M-P12や7M-P18といったトランスレスのテレビ球もあるのでこれでシングルもいいかなぁという考えが頭をよぎるといった具合だHi

 前回の6FY7やKT88は久しぶりのシングル構成だった。テストとして作成した1Wクラスのアンプを除けばこのような6V6シングルが実用として作成したものとしては最初になる。

これは100 mAの電源トランスN-10の280V出力を整流管5Z4で整流して6SL7/6V6を駆動するオーソドックスなものだ。使用球は全て旧ソ連製の互換球を使用しているので新品(NOS)であっても4本で1500円程度とチープなもの。チョークと抵抗で平滑化しているので自己バイアス込のプレート電圧は220V程度だ。
 これを作った動機はともかく整流管を使用してみたいと思い当時250円程度だったので購入してみてそれにあう電流量としては6V6が適当だった、それだけであるHi

 このあと製作の主体はプッシュプルに移っていくのだが、このシングルアンプもその後作成したプッシュプルアンプでも整流管アンプでは右側手前の整流管を差し替えて使用してきた。プッシュプルアンプは設計電流は150~200 mA程度使用するので当初は5AR4を前提として製作したのだが少し電圧が高くなりすぎたので定格(125 mA)を超えていることを承知で使用していた。このシングルを製作したのが2011年なのでトータル通電時間は5000時間程度は経過しているかと思う。
 真空管を使用し始めて意外だったのが寿命がこないということだ。真空管といえば切れて交換が前提なのでソケット使用なのであり、その寿命ゆえにトランジスタに駆逐されたということになっている。実際、今は見なくなったがブラウン管のモニターが使用時間とともに暗くなっていくのを実感していたので、使用しているうちに使えなくなってしまうものだと思って球を購入するときにはたいてい予備球も入手していた。しかし、今まで製作した中で使用できなくなった真空管は誤ってとばしてしまったものを除けば6P14P(6BQ5 ソ連互換球)1本だけで、これもヒーターというよりはSGの過熱による暴走だった。
 KT88シングルを鳴らしてみてこの6V6も久しぶりに聞き比べてみようとひっぱり出してきて整流管もこちらに里帰りさせたのだが、各部の電圧を測ってみると製作時とあまり変化していないようにみえる。しかし、定格越えで使用していた整流管なら劣化しているに違いないとばかりに特性を確認してみることとするHi

 
 これが今回計測した三本である。左の二本が5Z4のソ連互換品で40年近く前の製造品だが真空管としては後期の製造である。右はプッシュプル用に入手したもののほぼ未使用のSOVTEK製5AR4である。
 5Z4の頭部をみてもらうとわかるが使用中の5Z4のガラスは金属が蒸発したせいか黒くくすんでいる。


 一部を拡大すると多少わかりやすいと思うが、下部のゲッターの鏡面が未使用は銀色なのに対して使用中のものは暗い鏡面になっていて、電極を支えるマイカ板もプレートのあたりが黒く汚れてきている。
これはhttp://www.tubedata.orgから入手した5Z4の特性カーブだ。50 mA/10 V、130 mA/20 Vとなっており、この間の内部抵抗は125Ωである。
VpIn useNOS5AR4
0000
5202070
104050160
157070240
2090120360
25130160460
30180210600
35210270
40300330
ヒーターに所定の5V(ただし直流)を加えて5Vおきに片方のプレートに流れる電流を計測した。10~20V間の抵抗値でいうと使用中が200Ω、未使用が143Ωである。やはり劣化しているといえる。しかし面白いことに40V印加したときには電流値の差が縮まっている。40V以上を流していないので推測でしかないが高電圧を付加するとカソードから強引に熱電子を引っ張るので追いついてくるのかも知れない。平均電流で100~200 mAで使用しているので整流管を流れる電流としては数百mAになっているからこの領域までくると劣化が目立たなくなっているのではないだろうか?そう考えると使用中のアンプの電圧がそれほど違っていないことの説明がつく。
 比較用に5AR4も見てみたがさすがに200 mA級なだけあって非常によく電流が流れる。5Z4と比べて20 V程度電圧が違っていたのもこれをみれば道理というものだ。

2017年2月18日土曜日

KT88シングルアンプの製作(特性測定)

 ほぼ毎日数時間は通電を行ったので、そろそろ球も落ち着いてきた頃合いかと思い、特性を計測してみた。
 B+は360 V、カソード電圧が30 Vとなり1球あたりの電流は75 mAである。トランスの電圧降下が約20 Vあるので有効プレート電圧は340 Vである。一次3500Ω接続にしているので75 mAスイングするとプレート電位は263V振れる計算だ。ロスがなければ計算上は9.8Wの出力になる。しかしながら、トランスの電圧降下も計算に入れると約60 Vで150 mAの電流が流れることになるのでビーム管接続でなんとか流せるかなぁという値である。

 測定はパソコンのWavegeneを用いて入力を行いnanoDSOを用いて計測を行った。

 目視でのノンクリップ電圧は1 KHzで20 Vppとなり、6.25 Wであった。3500 Ω負荷での有効電流は60 mA、電圧が210 Vとなる。計算上有効プレート電圧は120V程度なので三極管接続として考えると妥当な値である。
 ダンピングファクタは1.5 W出力時に2であった。三極管接続の内部抵抗が約1 KΩなので低く出ているがウルトラリニア接続にしてあること、トランスの内部抵抗によるロスがあることからこんなものなのだろう。
 電圧利得は23 dB程度(約14倍)なので1 V程度でフルパワーになる設計通りの値だ。これでも夜間は近所迷惑なのでかなり絞ったところで聞いており、VRのチャネル間の偏差が気になるのでATTを挿入しているくらいだ(笑)

周波数特性は1.5 W出力の時でこのようになった。若干リプルがあるが実測で0.2 V程度であり、測定誤差と考えてよいだろう。コアボリュームに余裕があるためかシングルアンプとしては低域が良く出ている。PCのオーディオが22 KHzまでなので20 KHzまでしか測定していないが、10 KHzでの低下が全く見られないのは、6FY7で使用したトランスの結果を見た後だと驚きである。使用しているのがブックシェルフスピーカーなので、どうせ二桁 Hzの低域特性は絶望的なことを考慮すればプッシュプルにする必要などないくらい充分な性能に見える。

方形波を入力した時の特性は
100 Hz

1 KHz

10 KHz

となっている。前述のようにPCの帯域が20 KHz付近までに制限されているので10 KHzの方形波(3倍成分を多く含む)はそもそも入力が方形波ではなくなっているだろうから参考程度である。

NFBを掛けていない無帰還アンプであり、ほぼ想定通りの特性となった。
 電源トランスを換装して動作時にB+が400 Vになるようにしてやれば完全に三極管接続としても10 Wが出てくるのではないかと思う。しかし、現状で充分実用になっているので固定バイアス化程度で8 W程度を狙い、6 dBほどNFBをかけてやれば常用のDVD/CDプレーヤーに接続するのには丁度よい感じになるので穴を広げる必要があるトランス換装までしなくてもよいのかなぁと悩ましい。
 実は、現状の設定で手持ちのEL34、6L6GをKT88の代わりに挿入して電流を測定してみたのだが、どちらも25~27 Vとなった。この値だと6L6GはSG電圧は超過するものの、プレート損失は約20 Wでどちらも規格内に収まる。経験上、最大SG電圧がプレート電圧より低く設定されている管であっても三極管接続であれば問題はまず出ないので、このままいじらずに球の差しかえをして比較してみるのも興味あるところだ。一方でKT88にとっては軽い動作になるのでもったいないなぁとも思っている(笑)。


6FY7 シングルアンプ その3

 完成した6FY7シングルアンプに通電してみた。音楽に対する耳を持っていないことは重々自覚しているので良し悪しはわからない(笑)。パソコンのサウンドアウトから入力してデスクトップでスピーカーを鳴らすには充分かなとは思う。

 簡単に特性はとってみたのだが、グラフを作ってJPEGに書き出したところでついつい測定データファイルをセーブせずに終了してしまった。なので記憶によるのではあるが、片側クリップを目視で確認したところで1.1W、両側クリップだと2W程度だったと思う。利得は15dB程度なので1~2V程度のパソコン出力ならば低すぎず高すぎずといったところだろう。振り返れば設計通りなのだが、1W程度でクリッピングが目視で確認できるのは垂直管の非直線性を反映しているといえる。もっと初段を歪ませれば双方で補正は出来るのだろうが倍音成分がメインだろうから、このままでもよかろう。
 周波数特性も見てみたが、どちらかといえばこちらの方が問題ではある。
低域も高域も狭い蒲鉾型で通信機であれば余計な混信が消えてくれて便利だねという形をしている。実は低域に関してはこれでも原型の6T10アンプよりは改善している。そのあたりは低内部抵抗がきいているということなのだろう。もう少し結合コンデンサやパスコンの容量を増加させれば改善はできると思う。
 高域についてはもう少し良好なイメージを描いていたのだが想像以上に狭帯域だ。設計段階でミラー効果による高域の減衰はあるとは思っていたが10KHz程度は大丈夫だと思ったのだが・・・

 少し気になったのでトランス単体の特性も見てみることにした。

 今回使用したOPTと小型のわりに評判の良い東栄のT1200をほぼ同条件で計測した。測定機は高周波用のネットアナなのだが5Hzから測定可能なので流用している。そのかわり真空管接続時とは入力は1V程度と非常に軽い負荷条件で直流も流れていないので実装時よりも特性は良くなる方向で計測されるはずである。
 50Ω系なので入力は1.2KΩの抵抗を直列に挿入し、出力には8Ωの抵抗を並列に挿入して測定している。そのためかシングルアンプ用OPTの泣き所である低域の低下は両トランスともわずかで40Hzでも1~2dB程度の低下だった。一方、高域は5KHz程度から低下が認められるが今回使用したトランスはT1200に比べて2倍程度の割合で低下しており、10kHzで3dB程度の減衰となっている。T1200には180kHz付近にピークがあるので低下割合が小さいのかも知れないが、実装したアンプでの特性はトランスの影響を強く受けているといえるだろう。

 いろいろと改善する余地はあるのだが、KT88アンプの落ち着きを待つまでの繫ぎではじめたことでもあり、この程度にしておいて、また気が向いたらいじってみることになりそうだ。

2017年2月15日水曜日

6FY7シングルアンプ その2

[設計]
 新たな穴あけはしたくないのでトランスソケットは変更しないこととした。現状では220Vをブリッジ整流して330Ωの抵抗1段のリプルフィルタと必要最小限の構成になっている。0.12 Aなので70~80 mA程度の電流が流せる。6T10を使用していた時には260 Vが出力されていた。
 三極管を使用したシングルアンプは電源の影響を受けやすいのでリプル対策をしっかりとり、左右のチャンネル毎にフィルタリングするというのが理想形だ。6FY7はトランスレス構成のテレビ用に設計されているので低電圧・大電流型だ。出力用のSection2の常用最高電圧は275 Vなのでもう少し厳重なリプル対策をとる方が良いというのはわかってはいる。しかし、今回はせいぜい1~2W程度であり、出力トランスに良好な特性を期待できないということもあり終段は共通でこのまま使用し、初段のみ左右独立のフィルタリングとすることとした。

 6FY7 Section2の特性図にPd 7Wの線とトランスの5500Ωの負荷線を引いてみたのがこの図である。B+を260 Vとすると30 Vのバイアスでおおよそ30 mAとなる。カソード抵抗は1 KΩで0.9Wを消費するので5 W抵抗にパスコンを付ければよいだろう。こうすると60 Vppの入力により45~350 Vまでスイングすることとなる。垂直管ということもあり対称性は185:120 Vとすこぶる良くない。もう少し負荷抵抗を高くして直線性を稼ぎたいのではあるがトランスが5500Ω固定なので仕方ない。
 常用のスピーカーは6Ωを使用しているので4Ω端子に接続すると少しはマシになると思うがその程度の改善はたかが知れている(笑)。120Vで片側がクリップするのでノンクリップ出力は1.3 W、双方がクリップする出力であれば2.1 Wだ。バイアス用のカソード抵抗とほぼ同じ電力というのはなんとも情けない。固定バイアスにしたいところではあるがブリッジ整流なので負電圧は作れないのだ。しかし、内部抵抗が920ΩなのでDFは約6と裸特性でこの値だけは光っている(笑)
 続いて初段の設計に移る
 終段のバイアスが30 Vなので1 V入力として30倍の利得が欲しい。終段の許容グリッド抵抗は2.2 MΩとなっているがオーディオ回路を想定はしていないので安全をみて680KΩとする。リプル対策に40 Vほどドロップさせて220 Vを供給したと仮定し負荷線を引いてみたのがこの図だ。
 33kΩの負荷抵抗をつけるとAC負荷は31.4 KΩとなり、バイアスを1.5 Vとするとこのようになる。1.5 V入力で40~45 Vとなるので終段をドライブするのには充分である。零信号時の電流は約1.8 mAなのでバイアス抵抗は820Ωとする。終段とのカップリングはオーソドックスに100 nFのフィルムコンデンサで結合する。
 垂直管のように電流を流す三極管は総じてPG帰還容量が大きい。6FY7では4.4 pFもありミラー効果により入力容量は130 pF近くに達する。100 KΩのVRをつけると約50 KHzで高域は落ち込んでしまう。これは理論値なので実際にはもっと早く落ち込むだろう。もともと期待を高めてはいけないアンプなのだ。

というわけで設計を行い、実装したのが下の図となる



6FY7シングルアンプ

 拾った球を使い、トランジスタ用の低電圧部品を使って50V以下でもそれなりの動作をすることがわかると、今度は球にとって普通の条件で動作させるということをしてみたくなった。とはいうものの、真空管を使ったオーディオは道楽であり、山水やタンゴといったオーディオとは縁遠い暮らしをしていても耳にしたことのあるメーカー製のトランスは高価でちょっと試してみるというのを躊躇するには十分な価格だ。
 当時は関西在住であったので日本橋を徘徊していると東京真空管という名前からしてこんなとこにあっていいのん?という店を見つけた。そこで当時1500円くらいで球用としては安いシングル用トランスを販売していたのでついつい買ってしまったのだ。電源はトランスを工夫すればなんとかなるだろうという軽い気持ちだった。そして、こゆいジャンクを販売しているデジットで新品で球用のトランスを販売していた。6.3V2Aと220V0.12Aのトランスで球用で良くみかける伏型でなく、縦型である。とはいえ普通の配置ではなく内蔵機器で時折見かける90度回転させた形の縦型だ。確か3000円くらいだったと思う。絶縁トランスにしてもこの容量だと同程度の値段はするので使いまわせるだろうという軽い気持ちで購入した。この時点で5000円程度の投資はしていたわけで、どうせなら実用としても使えるものを作りたいと思ったのだが、そうは問屋がおろさなかった・・・。
 それなりの音量がならせる球の種類は豊富にあるのだが、そのような球には需要があるのでそれなりの価格がついている。昔であればテレビから抜いたジャンクというものもあり安価にあったのだろう。じっさい秋葉原であればそのような球を100円程度の捨て値で販売しているところがまだあるが、関西ではついぞ見かけなかったのだ。そこに、海外通販であれば安価に販売してるものもあるということを知り、インターネットが一般の商用でも普及しだしたころでもあったためか、不良在庫品を$1で販売するセールに出くわした。$1/本なら多数買うと送料が3000円程度かかっても国内より破格値で購入できるな、というわけでいろいろと使えそうなものを購入した。12AU7も国内だと1000円弱かかり、通販でもそれなりの値段であったが電圧違いの7AU7は100円だったので結構買ったのである。終段に使えそうなパワー管も電圧違いならそれなりの種類があった。とはいえ6.3Vで使える有名球はセールになっていなかったが・・・。
 不人気球の中に6T10があった。これはTVのFM検波と増幅の五極五極複合管で6BM8が高額になる世の中であればこの球も高額になってもよかったはずなのだが、$1である。理由としてはソケットが12ピンであり、ヒーター電流は1.05A、しかも五極管の片方はG3にも利得を持たせるために単純な五極管として使用した時には性能がイマイチという一癖ある球だったからだろう。そんなことは購入してから知るわけなのだが(笑)、当時は使えるだろうと購入した。

 そうやって6T10を使ったシングルアンプを作ってみたわけだ。OPTも小さく五極管なので二次巻き線を利用した負帰還をかけたが、電源をいれて定常状態になるまでは不安定な発振を起こすというシロモノ。
 しかし、YM-180をシャーシとした小型に仕上がっていて、最初に形にしてみたという記念碑みたいな意味で今までときおり通電していた。

 先日のKT88で都合10台近くを作ってきたということもあり、自分としては初めての試みである、既存品の再利用をやってみようと思い立った。

やっぱり、いろいろと書いてると前書きで終わってしまうなぁ(笑)

2017年2月11日土曜日

KT88シングルアンプの製作(設計つづきと試作終了)

 前回の基本方針をもとに手持ち部品をあわせながらとりあえず配線してみた。
 以下がその回路図だ。不具合があれば随時修正していくつもりでいたのでチャンネル間のクロストークどころか前後段の分離すら行っていない上に、ヒーターの処理すら行っていない(笑)。



 各部の電圧も測定して記載してあるが、狙い通り(?)にB+は340V程度に落ち着いた。これだと三結では10Wには届かないのがあきらかなので申し訳程度の巻き線比しかないが一次側の2.5K端子をSGに接続する三結に近いUL結線としてみた。
 KT88はSOVTEKでeBayで安価に出品されていたので購入してヒーターの導通だけ調べて死蔵していたもの。すでに2009年製造なので真空管としては若いのだが、7年間寝ていたわけだ(笑)。そのせいなのか、世間でいうエージングが必要ということであるのかはわからないが通電直後はカソード電位が25 V程度、つまり60 mAしか流れていなかったのだが10分程度導通していると今の電位に落ち着いた。ここ数日通電して様子をみると30V程度で落ち着いているので安定したということなのだろう。
 テスタのACレンジでそれなりに正確な100Hzで1Vを加えた時にKT88には60Vが負荷されており、60倍の増幅度が得られている。これなら初段の電流的にもクリップはしていないと思われる。また、トランス換装でB+を上げてバイアスが深くなったとしてもゆとりがあるだろう。正直、我が家の環境では昼はともかく夜間は近所迷惑であるので数Wもあれば充分であり、VRをかなり絞って聴くことになる。そのためにLR間のVRの誤差が莫迦にならないのでNFBをかけて利得を落としても良いと思っている。

 今回、ハム対策は全くといってとっていないがほとんど気にならないレベルでしかない。マニアの方が鼻で笑う82dB程度のスピーカーということもあるのだが・・・

 詳細な特性はもう少し球を落ち着かせて測定してさらに改良するか決めていきたい

2017年2月10日金曜日

KT88シングルアンプの製作(設計)

[設計編]
 OPT-11Sは二次側端子を0-4-8Ω使用時B-2.5K-3.5Kとして、0-8-16Ω使用時にはB-5K-7Kとして使用出来るようになっている。許容電流は90 mAとなっている。各接続での10W出力時の一次電圧電流は次のとおり。
2.5K    224 V/89 mA
3.5K    265 V/76 mA
5K    316 V/63 mA
7K    374 V/53 mA
A級動作では上記電流の二倍以上の電流がプレート電圧最小点で流れる。三結時に100~180 mA流すのに必要なプレート電圧は80~150 Vであり、自己バイアスを採用するとバイアス抵抗による電圧降下が30~50 Vあるため動作電圧は上記電圧に130~180 V嵩上げした値が必要だ。つまり400~500VがB電圧である。今回はトランスの巻き線をフルに利用して有効活用したいので3.5K動作で設計することとした。10W動作ならば450V程度ほしいところだがPV-145で可能か検討してみよう。

 山水のPV-145は倍電圧整流用のトランスで10-0-85-105-125 V/0.7 Aの巻き線がある倍電圧整流はACのざっと2.4倍の電圧で0.3倍の電流が目安なので10-125 Vを使用して325 V/0.2 Aという計算だ。3.5KΩ負荷だと前段の分を考慮しても充分な電流容量があるが電圧は目標よりも低い。幸いヒーター用に6.3 V/2 Aが4つあるので終段に各1、前段に共通で1使って余った巻き線で嵩上げしてみよう。これで約340Vだ。まだ足りないのだがC電源用に32 V巻き線があるのでとりあえずは自己バイアスで製作して物足りなくなればこの巻き線を使用した固定バイアスとすることを考えようと思う。

 6.3 V嵩上げすると約141 Vなので波高値は200 Vppとなる。電流はDCで180 mA程度なのでピーク値が20倍として3.6 A。この程度であれば汎用される1000 V/1 A規格の1N4007で充分対応可能だろう。リプル除去の容易さから全波倍電圧整流形式を採用する。コンデンサの容量を計算してみる。倍電圧整流では上下二段になったコンデンサにサイン波の位相180度毎にそれぞれ充電することで電圧を倍加させている。消費電流を0.2 Aとすると50 Hzの1周期の間に供給すべき総電荷は0.2 (A=C/s) / 50 (Hz=c/s) = 0.004 Cつまり4 mCとなる。一方コンデンサが蓄電する電荷は容量×電圧の関係があるので10%の変動率に抑えるならば供給電荷の10倍の蓄電容量が必要と概算できる。つまり40 mCが必要で200 Vであれば40 mC / 200 V = 200 uFと計算される。というわけで340 V程度であれば220 uF/250 Vのケミコンで良いだろう。

 整流後だが、手持ちと大きさの関係で3 H/150 mAのチョークコイルと390uF/450Vのコンデンサを使用することとする。内部抵抗の低い三極管接続では電源の安定度とクロストークに留意する必要があるがまあ妥協しよう。

 出力管はとりあえず自己バイアスにするとして安全を考えてグリッド抵抗は100KΩ、結合コンデンサには0.22 uF/400Vとする。三結でKT88の場合400 Vで70 mAの時-40 V程度のバイアス電圧となるので前段の増幅度は40倍程度必要だ。三極管であれば12AT7が選択肢だが余裕をみると12AX7か五極管を使用するか全三段増幅とすることとなる。バイアスが40V程度なのでグリッド抵抗には0.4 mA程度の信号電流が流れる。前段が影響を受けないようにするなら5~10倍は電流を流したいので2~4 mA程度の電流を流したい。というわけで余裕はないのだが12AT7を採用しようかと思った。
 以前、秋葉原にあった真空管屋で安価に売っていた複合管にロシア規格の6F12Pという三極五極管がある。大きさは6U8と同程度の大きさで内部電極はさらにもう一回り小さいのだが規格を調べてみると三極部で3.5Wのプレート損失を許容できることになっている。特筆すべきはμが12AX7と同じく100でgmが19mSもある低内部抵抗管であるという点だ。発振といった不安定要素がある可能性もあるが、この三極部を使用すると一段での高倍率増幅を持ちながらパワフルに終段をドライブできるはずだ。というわけで6F12Pを使用することに決めた。とりあえずは39kΩ負荷で5 mA程度になるようにバイアスをかけて問題があれば対応することとしよう。

 これで大筋の設計は終わった。

KT88シングルアンプの製作(前書き)

[前置き]
 老舗の閉店の話題を聞くと近頃はまた下火になってきている感があるが、オーディオアンプの世界では真空管は根強い人気がある。私がこの手の工作に手を染めたころには半導体が全盛となっており、当時の即時性のある工作指南書としての雑誌製作記事にはほとんどが半導体での製作記事となっていた。価格・流通量的にも電池をつかった安全性という意味でも妥当な判断だったろうと思う。とはいえ、その過去記事をまとめた制作集といった書籍には真空管を用いたものが結構紹介されてはいた。今であればジャンクやら回路を工夫してみて試行錯誤してみるということも出来るのだが、製作記事どおりにつくらないとどうなっているのかがわからないという当時では部品の入手性、工具や高圧部品の価格から敷居が高く手を付けられなかった。
 オーディオマニアというわけでもなく、一本で千円以上と価格のついた真空管には縁がなかったのだが、ゴミ捨て場で12AU7を拾ったことが契機となった。12AU7はAU, AT, AXとよく知られる双三極管の中では最も低μで内部抵抗が低いということも良かったのだろう。ためしにと電池ボックスを二つつないで20V程度で動作させてみると意外と電流が流れるし、トランジスタ用のトランスを使って音が出ないわけではない。結構面白いと思った。
 時代はインターネットの時代となっており、雑誌のような完成系の製作記事ではなく、成功・失敗を問わず中途半端な実験が膨大に公開されるようになっていて、真空管は必ずしも敷居が高いものではないことを知ったわけだ。そういう実験をしている人には安い部品の入手法を紹介されている人もいて、そのような情報をもとに部品を集めていった。半導体での常識では扱えないところも、また新規のデバイスを使うという好奇心を満たしてくれた原因だろう。

 そんなこんなでいつのまにかラジオRF用を流用した1W以下のシングルから6L6ppの30W程度のものまで都合10台程度のアンプを今までに製作してきた。とはいえ6L6といっても6L6GCではなくソ連時代の6L6を使用しており、市販品に使われているようなメジャー球を使ってみたいなと思い、球なりトランスなりを出物があれば入手してきたわけである。ところがいざ部品がそろってみたところで問題が生じたのである。メジャー球は真空管としては大出力を出すので高級品価格が見込め採用されている。つまりは部品が我が家には大きすぎるのだ。いざレイアウトを考えるとどうしても我が家の置き場のキャパを超えてしまう。そんなわけで死蔵してきたのだが、それはあまりにもったいないというわけでシングルでならばなんとか設置出来ると見込んで作ることとした。

 使用球はKT88をメインとしてEL34、EL156も使えるようにしたい。出力は6L6のシングルで得られる5W以上を三結かULを目指すこととした。球供養ということを考えれば整流管をしようしたいのだが実装面積の都合で今回は採用を見送ることとした。
 トランスは東栄の10W用OPT-11Sに山水の倍電圧用トランスPV-145を組み合わせる。

2017年1月4日水曜日

偽物2SC2314 その1

読者の方々(実は現在誰もこのblogを訪問された方はいない(笑))、あけましておめでとうございます。ぼちぼちと書き綴っていきますのでよろしく。

 今日のネタは偽物トランジスタである。今回はCB用ドライバーの2SC2314をとりあげる。これはCB用として開発されたトランジスタとしてはかなり後発にあたる1W程度の出力のためのトランジスタで0.5Wが最高出力であった日本規格としては終段、出力の大きなアメリカ規格としては終段の1,2段前のドライバー用となっている。データシートでは27Mhzにおいて35mW入力に対して1.8Wの出力となっていてfTが250MHz@50mAと50MHzでもそこそこの性能が期待できるトランジスタだ。
 三洋は意外と(失礼)高周波につかえるトランジスタを後期まで販売していたのだが、メーカー自体が合併されてしまう憂き目にあっており廃版となって久しい。しかしHFハイバンドから50MHzで1W程度の出力を持つトランジスタというのはなかなかないので、自作派の無線家にとってはそこそこの需要があると思われる。

 さて、またまた中国から2SC2314を入手してみたところ、これがまた偽物であったので調べてみた。


 実は届いた偽物は大きくわけて三種類あり、すべて違った特性だったのだが、今回は一つだけ紹介する。本物もレーザーマーキングの時代のものであり、マーキングは結構見にくい。データシートを参照してもらうとわかるのだが、本物は表側に逆三角形を描くようにピポットがそんざいする。偽物にもピポットがあるのだが三つの大きさが異なる。これはもともとなのか、後で付け足したのかはわからない。裏側も若干形が異なっている。

 今回、このような回路を組んで特性を調べてみた。



 このトランジスタは高周波用としては高いhFE(~200)を持っており、バイアスを調整しないと面倒なのでC級で計測することも考えたのだが、入出力のインピーダンス変換の周波数特性の影響を減らすためにAB級で計測することとした。簡単に取り換えられるようにICソケットを3端子分使用している。トロイダルコア活用百科では1Wクラスのアンプでは60 mA程度のバイアスを流すことになっているが、放熱器を結合させるのが面倒だったので30mAで測定した。バイアス調整も短時間測定ということで熱補償もなく単に抵抗で分圧したのだが、この副作用もでてしまった。

 これが測定した結果である。本物、偽物ともに20dBmで飽和してしまっており、設計値よりも10dBも低い値になってしまっている。偽物2SC2314の方で10dBm以上を入力すると、測定中に消費電流が30mAよりも下がってしまった。真空管の回路では入力がない状態で通電するとプレート電流が流れすぎてしまうので電圧を落とすかきちんと入力を加えることを覚えている方もおられると思う。これはグリッドの整流作用によりグリッド電流が流れたことでグリッド電位が負に傾き電流が抑制されるからなのだが、これと同じことが起きており、ベース電位が低下したためにAB級動作からC級のモードに変化してしまったのだろう。簡単なバイアス回路にするために直流としても入力抵抗が高すぎて一種のAGCのようになってしまったために20dBmで飽和してしまったものと考えられる。
 飽和しない入力レベルである-20dBmを見ていただくとわかるのだが、どちらも1MHzでは30dB近い利得がある。本物は50MHzでも15dB程度の利得があるが、偽物は50MHzで利得は0となってしまった。入力に4:1のステップダウントランスを入れて50Ω時に対して2倍の電流を入力していることになるので6dBの利得の時にトランジスタのベース電流とコレクタ電流が釣り合うことになる。fTの定義はエミッタ接地における電流増幅率が1になったところであるから、本物のfTは100MHz程度、偽物は30MHz程度と読み取れるわけだ。
 この値は本物としてもデータシートでは250MHzとなっているわけなので低すぎるのだが、回路自体の周波数特性により劣化したこと、データシートは50mAの時のfTであるので30mAでは低くなっていることが考えられることの相乗作用であると思う。こんなことは言い訳といわれても仕方ないが、実際に使用する条件に今回は近いわけで、このような回路でそれなりに使用できないようでは使えないと思ってよいのではないだろうか?

 ちなみにDE-5000を使用して100kHzにおけるCbeを測定すると本物は30pF程度、偽物は60pF程度と違いがあった。